綿矢金原世代

芥川賞を同時に受賞、二人とも女性で史上最年少(正確には最年少は綿矢りささんの方だが2月生まれなので二人は同じ学年)、そして受賞時にマスコミの前に立った時の二人の見た目、服装、印象等この二人は面白いくらいに対照的で何かと比較されている。先入観と言うのは恐ろしい物でこの二作品を立て続けに読んだのだが読んでる最中に主人公の「私」が勝手に二人にダブってしまうのだ。そしてその浮かんでくるルックスと作品内の主人公達が見事にハマってしまうから面白い。両作品ともどんな人が書いたのか全く先入観無しで読んだら読後の感想もまた変わってくるだろう。
対照的とは言ったが実は二作品は同じテーマを書いているし読み終えた後の言いようのない"気怠さ"も共通した物だった。閉塞感、若さがみなぎってるとか青春の汗などからはかけ離れた世界を書いている。二作品とも自分一人どうなっても世の中は変わりやしないという社会に対して醒めてしまっている若者の内面を恐らく実体験から書いている。授業中同じテーマを与えられてよーいドンで書き始めたかのように本当によく似ている。
蛇にピアス」は小難しい文学作品が嫌いでエンターテイメント好きな私には全く抵抗無く読めた。物足りなさや狭さは感じたが簡単に言えば理屈抜きに"面白かった"のだ。金原ひとみさんはプロの作家としてあらかじめ決まったテーマで読者が喜ぶ商業的な作品を書かせたら案外上手いのではないだろうか。ただ、この作品はあまりにも作者の守備範囲内の世界なので全然違った世界を表現できるのかはわからない。今後どういう作品を書いていくのか不安もあるが期待が大きい。
蹴りたい背中」は話のあらすじだけを書いてしまえば高校生の日常であり上手く輪に入れない女の子の心の葛藤であり普通の青春ストーリーと言っていいだろう。綿矢りささんの凄いところは言葉では説明できないもどかしい気持ちを書く表現力だと思うのだがこの作品はそのオンパレードとなっている。正直言うと読んでいて途中でお腹いっぱいになり早く物語を進めてくれよって気持ちになった。ただこんな何でもないテーマで飽きさせない筆力はさすがだ。前作インストール時よりも文章力も構成力も上がっていて面白く読めた。巷で言われるようにこの表題は絶妙だと思う。
普段性別も年齢も職業も立場も関係ないネットの世界にどっぷりと浸かっている私が19歳の女の子が書いた作品と言う先入観を持って読んだことをちょっと残念にも思ったが「世界に一つだけの花」の歌詞の時にも書いた様に人というのは自分の位置を確認する為に常に周りを気にする生き物だ。女が居るから自分が男であることを知る、戦争があるから平和の有り難さがわかる。綿矢金原世代(勝手に命名)が無気力無関心ですぐにキレると言う目で見られているのもそう定義して自分たちの立ち位置を確認したいおじさん世代の勝手でしかない。例えビジュアル優先話題先行でもおじさん達に読みたいと思わせる事が今の文学界には必要だろう。その意味では比較も大いに結構なのかもしれない。この春には平成元年の早生まれが高校生になる。20歳の彼女達だって彼らから見れば"昭和生まれ"のおばさんだ。村上龍がこの二作品を破綻のない作品で強く推すと言うより受賞に反対する理由がないと言っていた意味が読んでみて納得できた。